君と歩いた道

2017年に公立中高一貫校に入学した娘は、2023年に大学生になりました。

蓼科旅行〜Wim Wendersから小津安二郎へ

 年明けまもなくの頃、春の旅先をどこにするか考えた。道後の旅から2年半。行くとしたら娘の春休みしかチャンスはない。行き先は山と掛け流しの温泉があって、目立った商業施設やレジャー施設が何もない場所、と思ったのが発端。主な目的は脳内のデトックス。長野で宿を探し、蓼科親湯温泉のホテルを予約した。

 蓼科といえば夏に涼みに行くイメージだ。春先はまだ雪が残っていて寒いかも、しかし暖かくなってきたから行けるんじゃないか、などとおそるおそる天気予報をチェックしていたが、見事に旅の日程に寒の戻りが直撃した。強風や雪で電車やバスの事故に遭わないように祈りながら、無事に到着するたびに胸を撫で下ろす。それでも、山並や白樺の雪景色は絵画のように美しい。積雪の中を長靴で散歩したり、雪が舞う中で温泉に入って猿になった気分を味わったりした。

  ホテルは本の博物館のようだった。至るところに書棚があって、古書店でも見つからないような貴重な蔵書が収められている。心のこもった料理は、ほかと比べようがないメニューで、こんなホテルがあるものなのかと驚く。

 蓼科は、一昔前は別荘地として有名だったが、今は手放す人も少なくないという話を聞く。でも、文化人が集まってきた時代の活気を感じることはできた。何もなさそうだがそうでもない豊かさを、蓼科は誇り高く持ち続けているように見えた。実は小津安二郎の映画も、観たいと思いながら未だに観られていない作品が山のようにある。生きている間に観なければなのです。